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そのダイヤル錠本当に安全?防犯上の弱点
鍵を持ち歩く必要がなく、手軽に施錠できるダイヤル式の鍵。その利便性の高さから、私たちは、自転車のチェーンロックや、簡易的な物置の南京錠、あるいは、ジムのロッカーなどで、日常的にその恩恵を受けています。しかし、その手軽さの裏には、防犯という観点から見ると、決して無視できない、いくつかの構造的な「弱点」が潜んでいることを、私たちは理解しておく必要があります。ダイヤル錠の最大の弱点は、その暗証番号が、「固定」であるということです。一度、番号が第三者に知られてしまえば、その錠は、もはや何の防御力も持たない、ただの飾りになってしまいます。そして、その番号が漏洩するリスクは、私たちの身の回りに、意外と多く潜んでいます。例えば、施錠・解錠の操作を、誰かに背後から覗き見される(ショルダーハッキング)。あるいは、長年同じ番号を使い続けることで、特定の数字のダイヤルだけが、指の脂や摩擦で、汚れたり、摩耗したりして、番号を推測する手がかりを与えてしまう。さらに、悪意のある人間が、時間をかけて、全ての番号の組み合わせを試す「総当たり攻撃」に対して、原理的に無防備である、という根本的な脆弱性も抱えています。三桁のダイヤルであれば、千通り。四桁でも一万通り。これは、プロの窃盗犯にとっては、決して不可能な数字ではありません。また、安価なダイヤル式南京錠の中には、物理的な強度そのものが、非常に低いものも少なくありません。工具を使えば、いとも簡単に切断されたり、破壊されたりしてしまうのです。だからこそ、ダイヤル式の鍵を使う際には、その限界を、正しく認識することが重要です。絶対に盗まれては困る、高価なロードバイクや、重要な書類を保管する場所の施錠には、やはり、ピッキングに強いディンプルキーなどの、より防犯性の高いシリンダー錠を使用するべきです。ダイヤル式の鍵は、あくまで、短時間の駐輪や、比較的価値の低いものを保管するための、「簡易的な防犯ツール」である。その割り切りと、使い分けの意識こそが、あなたの財産を、本当の意味で守るための、賢明な判断と言えるでしょう。
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ダイヤル錠の番号を忘れた時の最終手段
心当たりのある数字を全て試しても、ダイヤル式の鍵は、うんともすんとも言わない。そんな絶望的な状況に追い込まれた時、残された最終手段が、全ての番号の組み合わせを、力ずくで試し尽くす「総当たり攻撃」です。一見、途方もなく、非効率な作業に思えるかもしれません。しかし、この方法は、鍵や本体を一切傷つけることなく、そして、特別な道具も技術も必要とせずに、時間をかければ「必ず」開けることができる、最も確実な自力解錠の方法なのです。この総当たりが、現実的な選択肢となり得るかどうかは、そのダイヤルの「桁数」にかかっています。例えば、多くのスーツケースや南京錠で採用されている「三桁」のダイヤルロックの場合、組み合わせは「000」から「999」までの、わずか千通りです。集中して行えば、一つの番号を試すのに二、三秒もかかりません。つまり、最大でも、千通り×三秒=三千秒、約五十分もあれば、必ず正解の番号にたどり着くことができる計算になります。テレビでも見ながら、あるいは音楽でも聴きながら、無心でダイヤルを回し続ければ、思ったよりも早く、その時は訪れるでしょう。一方、これが「四桁」のダイヤルになると、組み合わせは一万通りに跳ね上がります。同じ計算でいくと、最大で三万秒、約八時間以上かかる可能性があり、もはや、気軽な挑戦とは言えなくなります。しかし、時間に制約がなく、どうしても壊したくない、という強い思いがあるのなら、挑戦してみる価値はあります。この地道な作業を成功させるためのコツは、「規則性」と「記録」です。必ず「0000」「0001」「0002」というように、順番に試していくこと。そして、疲れて中断する際には、どこまで試したのかを、必ずメモに残しておくことです。これを怠ると、同じ範囲を何度も試すことになり、永遠に終わりが見えなくなってしまいます。
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開かずのダイヤル錠と格闘した長い夜
それは、私が大学生だった頃、夏休みの海外旅行を前にして、押し入れの奥から、何年も使っていなかった古いスーツケースを引っ張り出した時のことでした。長期の旅に備え、念のためにと、スーツケースに付いていた三桁のダイヤルロックを、何気なくかけてしまったのです。そして、出発前夜、荷物を詰めようとした時、私は愕然としました。その時、適当に設定したはずのダイヤルの番号が、全く思い出せないのです。最初は、高をくくっていました。自分の誕生日や、電話番号の下三桁など、自分が設定しそうな番号を、片っ端から試しました。しかし、ロックは、うんともすんとも言いません。時計の針は、すでに夜の十時を回っています。航空券も、パスポートも、全て、このスーツケースの中。明日の早朝には、家を出なければならない。一気に血の気が引き、冷や汗が背中を伝いました。友人に電話して助けを求めることも考えましたが、深夜に迷惑はかけられません。残された道は、一つしかありませんでした。「000」から「999」まで、千通りの組み合わせを、全て試すという、絶望的な作業です。私は、床に座り込み、テレビをつけ、心を無にして、その長い戦いを開始しました。「000、開かない。001、開かない…」。ダイヤルを回すカチカチという音が、やけに部屋に響きます。二百番台、五百番台と進むにつれ、指先は痛くなり、睡魔が襲ってきます。しかし、諦めるわけにはいきません。そして、作業開始から四十分ほど経った頃でしょうか。確か、「738」に合わせた時でした。いつものように解錠ボタンを押すと、今までとは違う、軽い手応えと共に、「カチン」という、天の助けのような音がしたのです。スーツケースが開いた時の、あの安堵感は、今でも忘れられません。